アーカイブ

養蚕×SDGs カイコで守る!地域の環境と雇用

薩摩川内市都町、自然の豊かさが残る地で蚕を育てる「養蚕(ようさん)」に着目した女性がいる。
農業生産法人バイオアースの代表取締役・植村頼美(うえむら・ともみ)さんだ。
「頼美さん、と書いて『ともみ』さんとお読みするんですね」
そう尋ねると
「そうなんです、一度も初めてお会いする方に正しく読んでもらえたことが無いから
名刺はひらがなにしたんですよ」
そう言って明るく笑う彼女は、この都町の土地のように明るく開けた方だと感じた。

他業種を運営していた彼女がなぜ突然、「カイコを育てる」ことになったのだろうか。

農業生産法人バイオアース社屋。

 

◆カイコの遺伝子が100%解明されて

「テレビ番組でカイコの遺伝子が100%解明されたという情報が目に飛び込んできたとき、
なんてすごいことが起きたのだろうと感心しました。そして、そのカイコを何とか
活用できないだろうか」
そう思ったのは今から8年ほど前のことだったそうだ。

カイコの遺伝子が解明されて何が起こるのか、不思議に思い方は多いだろう。
そもそも、カイコには実際に働く遺伝子が約11,000個存在するという。
この時、そのすべての塩基配列が解読されたということになる。
この遺伝子解明により、チョウ目害虫に選択的に作用する新規制御剤の開発や遺伝子組換えカイコによる有用物質生産など、産業利用への貢献が期待される一歩が踏み出されたのだと頼美さんは言う。

お子さんを育て上げ無事大人として社会に送り出したころ、
子どもとの接点が大きく変化し、このままでいいのかな…と思っていた時のこと。
カイコへの情熱・そして社会貢献への意欲の高まりで、頼美さんは養蚕業を営もうと一念発起することになった。

◆理解はなかなか得られず・・・

養蚕業を営む、息子さんである優介さんに手伝ってほしいと告げた頼美さん。
優介さんは聞いた時どんな気持ちでしたか?そう聞くと「一瞬無言になりましたね(笑)」と
当時を振り返り笑った。
笑顔が良く似ている二人。
だからこそだろうか、一瞬無言になった息子さんも
「もうやるしかないな(笑)」と決意を固めたと言います。

写真右:植村頼美さん 写真左:田代優介さん

さあ、まずはカイコを育てるために必要な桑の葉を育てなければと動き出した頼美さんと優介さん。
しかし、その道はひどく険しいものだったと二人は振り返った。
「いきなり、養蚕を営もうと思っている。桑を育てたいんだ、見学させてほしい、苗を売ってはくれないだろうか?
と言っても誰も受け入れてはくれませんよね。当時は県外まで足を運んで桑の栽培、カイコの生育環境の勉強をしました」
県外、福島県や茨城県つくば市の農研機構、九州大学を訪れ必死で勉強の日々。
そして、ようやく桑の葉を都町の山を切りひらいて始めることになる。

広さ約30a~40aの土地を自分たちで整備。
さらには1年目に2000株の桑の木を手作業で植えていく作業はとにかく苦労したという。

畑の様子。とにかく少数精鋭で切り盛りするには広い。

バークと呼ばれる樹皮を発酵させた堆肥を使用することで循環型木材産業を利用するところもまさにSDGs。

また育てた桑の葉はカイコの餌としてだけでなく桑茶の茶葉として余すことなく利用されている。

◆始まった養蚕業。活用法は化粧品!?

技術習得後、株式会社バイオアースの社屋内で始まった養蚕業。
カイコを育てるというと絹を繰ることで作る事の出来る絹織物などが浮かぶかもしれない。
しかし、頼美さんが注目したのはカイコの糸に含まれる『タンパク質』だった。
「人とシルク(絹)のタンパク質は親和性(物質同士の結びつきやすさやその傾向)が高いと言われています」
そんなカイコのタンパク質に着目し、頼美さんは乾燥しない生の繭からたんぱく質を取り出し主成分とする化粧水や美容液、シャンプー、リンス、クリームに至るまでを作り出したのだ。

乾燥繭(右)と生の繭(左)
乾燥繭はしっかり固く閉じていて、生の繭は糸がしっとりしている。
生の繭はカイコが中で生きているためカイコを摘出し綺麗な繭を採集することが非常に難しい。

この開発に至るまで、桑の栽培から数えること3年は立っていた。
この商品たち、現在はクラウドファンディング型インターネットサイトにて掲載されたことで
様々なメディアに取り上げられている。

◆商品開発がゴールではない、養蚕は1億総活躍社会への架け橋の一つに?

養蚕業を手掛け、さらに商品開発をして一つの着地点に降り立つことができたのでは?
この問いに、頼美さんはこう答えた。

「実は化粧品を作るというのは一つの通過点です。もっとやりたいことがあるの」

もっとやりたい事とは、気になる事ばかりだ。

「カイコは高度に家畜された昆虫。幼虫は動き回らず成虫も飛ぶことなどできません。
ご年配の方でも飼育可能な昆虫です。お庭で飼うこともできますしね。私は養蚕を通して
地域雇用にもつなげたいと考えています」

スタッフの皆さんと。

養蚕とSDGsがここでつながることになるとは。
カイコが架け橋となる地域雇用。
植村頼美さんとスタッフの皆さんとの奮闘はまだまだ続いていくのだろう。

力をあわせて。

(取材・文 加藤知衣子)