薩摩川内市の高校生14名が集い、本気の大人達と共に大成功させた「高校生食堂」。学校も学年も異なる未来の大人達がどのように団結し、成功を収めたのか。また、企画・運営した大人達が本気で伝えたかったことは何か。喜怒哀楽、大奮闘した2か月。未来の大人達のキセキに密着。
▼【前編】
❚ 11月3日
初めてのプレオープン日。
「高校生食堂」オリエンテーションからちょうど1か月。
この日、坂口さんが提案し取り入れられたのが、元気な挨拶から始める「朝礼」。
その内容は、発声練習や、その日のスケジュール・目標の確認。
これまでは大人が活動開始の笛を鳴らしていたが、この日からは自主的に。
そして、プレオープンに向けて本格準備。
15時開店、準備時間は6時間。
◆ 調理班
調理班は、11食分の仕込み。
この日の調理メンバーはたった2人。
リーダーは、スイーツ作りが得意な田中深結さん。
学校行事でのスイーツ販売の経験を活かし、手元には田中さんが自ら作成した作業工程表。
同じ高校の後輩、瀬戸口司さんを積極的にリード。
2人で黙々と準備を進める。
◆ 接客班
接客班は、レジ操作の研修と予約座席表の確認。
リーダーは島田さゆりさん。
実は、当初は調理も希望していた。
そんな島田さんが接客へと意志を固めたのは、将来“お客様を笑顔にできるようなお店を持ちたい”という「夢」への第一歩を踏み出したからだ。
島田さんを先頭に、ロールプレイングも緊張感を持ってできるように。
また、接客班全員で予約リストや座席表もしっかりと確認。
店内を見渡し、小さなお子様にも安心して過ごしてもらえるよう念入りに消毒も。
◆ プロモーション班
プロモーション班は、お品書きに加える重要な一文を案出中。
ポイントは2つ。
・生産者のこだわり食材の説明
・自分達で考案したメニューのこだわり
そのどちらの魅力も余すことなく、調理班がまとめた“料理のこだわりポイント”を基に魅力がより明確に伝わるような一文作りを任されたのだ。
そして、お客様へ伝えるのは接客班。
しばらくして完成した一文一文に目を通し、ロールプレイングで早速取り入れる。
接客メンバーは、プレオープン寸前まで暗唱していた。
【15:00】プレオープン
「いらっしゃいませ!」と元気よく挨拶。
順調にお客様を座席へ案内。
突然の座席変更も速やかに対応。
お冷を運び、遂に“料理の説明”へ。
接客班にとっては腕の見せ所の瞬間。
初めてということもあり少し緊張している様子もあったが、一つ一つの料理を丁寧に説明。
一方の調理班は、盛り付け。
全体運営の大原さんが2人をサポート。
無事にお客様全員に料理の提供を終え、調理班の2人も積極的にお客様の元へ。
もちろん大人達は一切手伝わず、傍で見守り続けた。
初めてのプレオープン。
最初は、緊張や不安の表情が伺えた。
しかし、徐々にお客様との距離も近くなり最後には笑顔でお客様を見送ることができた。
そして、反省の時間へ。
まずは自分達で話し合い。
その後、全体運営の大原さんが大人とお客様からの感想の聞き取りへ。
反省を行うその姿は、「高校生食堂」を成功させたいという強い気持ちと、1か月間努力をする中でそれぞれに芽生えたプライドを感じた。
❚ 11月6日
プレオープンから3日後。
鹿’tariyanに集まったのは、接客班とプロモーション班。
接客班は、プレオープンで課題としていた“配置”について話し合い。
ポジションと動線を明確にし、役割も被らないように振り分け。
一方のプロモーション班は、画像編集中。
店内レイアウトとしてポスターを飾る為、色味を細かく調整。
そして、12時前になると全員でどこかへ移動。
向かった先は、川内駅2階FMさつませんだい放送局。
実は、竹原勇輝さんがパーソナリティを務める番組「たけどんのDON!DON!サタデー」に神村学園高等部に通う調理班の田中深結さんと山下よし乃さんがゲスト出演。
2人を応援する為に全員で駆け付けたそう。
そして、放送が終わると再び鹿’tariyanへ。
3日前のプレオープンの課題と解決策を話し合い。
また、食材の良さをさらに探求、自分達でよく理解してお客様に伝える為、生産者について再リサーチ。
調べていく中で新しい発見も。
「私の家の近くにある工場で生産されていました!」
『のざき牛は全国でも有名なお肉なんですね!』
地元の食材が県内外で人気であることを知り嬉しそうな様子。
そんな自慢の食材を「高校生食堂」オリジナルのメニューとしてアレンジし、お客様へ提供することができる喜びを感じたように見えた。
そして、接客班とプロモーション班は解散。
夕方からは、調理班がSSプラザせんだいにて仕込み。
先日のプレオープンでは11食分。
当日はイートインとテイクアウト合わせて約150食。
開催まで残り2週間。
150食分を想定しながら、また手順を確認しながら調理。
開催の前日もこの場所で仕込みをする為、道具や環境に慣れる必要もあった。
限られた時間の中、ただひたすらに仕込みを続ける。
手順や分量等、不安な要素を一つ一つ潰していく。
そして、この日は無事に約20食分を仕込みを終え解散となった。
❚ 11月7日
「朝礼」から始まる活動。
この日の進行、島田さんの一言が今も印象に残った。
「何か一つでもできることを増やして、今日も一日頑張りましょう!」
現状に満足せず、上を目指す言葉。
全員の士気を高めた一言だった。
そして、この日最初の活動は“オンライン対談”。
その相手は、ドラマ「高校生レストラン」のモデルにもなった三重県立相可高等学校「まごの店」の仕掛け人、一般社団法人未来の大人応援プロジェクト代表の岸川政之さん。
岸川さんは、地域の課題をビジネスの手法を用いて解決する“SBP”(ソーシャルビジネスプロジェクト)を立案し、現在三重県に留まらず全国へと活動展開中。
実は、今回の「高校生食堂」発起人の坂口さんは2011年放送ドラマ「高校生レストラン」を視聴したことをきっかけに影響を受け、今回の開催に至るまで長年の「夢」だった。
そんな坂口さんも憧れる岸川さんとのオンライン対談。
岸川さんによる店舗の案内や高校生へインタビューは、まるで実際に「まごの店」を訪れたような感覚に。
また、未来の大人同士での対談もあり、お互いに気になるあれこれを質問。
オンラインにも関わらず、笑顔が溢れとても充実した時間に。
オンライン対談終了後は、接客班はロールプレイングへ。
また、経理班の活動として、担当の伊原さんが「発注仕入れ」の流れについて指導。
経理班を兼任するのは、全体運営の大原さんと接客班リーダーの島田さん。
マニュアルに従い電話発注の疑似体験も。
自分達が使う食材がどのように発注され、仕入れているのかを考え、社会人の基本である電話応対の注意点も考慮しながらやり取り。
その後、調理班が毎回の活動でより美味しさを追求した、当日のメニューを試食。
OYAJI’sとWAKATE’sに分かれてメニュー考案を行った日から約1か月。
遠い昔のように感じられたこの瞬間。
全体の活動としては随分飛ばしてきたが、彼等はそのスピードに劣ることなく「高校生食堂」をしっかりと創りあげていると感じた。
試食が終わると再び、ロールプレイングが再開。
しかし、うまくいかない。
話し合いでは鋭く意見が飛び交い、雰囲気は正直良くなかった。
そして、ここで一言。
「とりあえず、大人の意見を聞こうよ。」
強く大人の意見を求めた瞬間だった。
うまくいかない点にばかり目を向けがちだったが、大人達からのアドバイスを聞き少しずつ冷静に。
話し合いを続け、再びロールプレイングへ。
すると、以前には見られなかった場面が。
それは、ほとんどカンペを見ずに自分の言葉で伝えようとする姿。
しっかりと相手との目線を合わせ、丁寧に接客をする姿に強く心を打たれた。
午前中から始まった活動も集中力を切らすことなく、根気強く向き合い、お互いを高め合いながら最後には団結することができた接客班。
この日も最高の笑顔で一日の活動を無事終えることができた。
❚ 11月13日
この日の活動も接客班から開始。
実際に使う道具を用いて繰り返しロールプレイング。
この日は、11月14日の2回目のプレオープンを控えていた。
その為、活動終了後も伝票や座席表の確認。
そして、夕方からは調理班の活動へ。
SSプラザせんだいにて、約20食分の仕込み。
活動終盤では、調理班にとって初めてのアクシデントがあった。
それは、グラニュー糖と塩の付箋のつけ間違えていたこと。
味見した坂口さんが気づき、発覚。
仕込みを終えていたデザートの「抹茶ムース」は全て破棄に。
痛い思いをした調理班。
しかし、この失敗が”教訓”になったに違いない。
❚ 11月14日
2回目のプレオープン。
この日は、本番に向け初の2回転。10時と12時にお客様をお出迎え。
プレオープン1時間前。
座席には、プロモーション班の古賀さんが選定した写真が並び、また、同班の馬場さんが活動の記録をまとめたパンフレットも添えられていた。
1時間前ということもあり、少し慌てている様子も見られたが無事に準備完了。
そして、この日はなんと2回目となるラジオ出演。
「高校生食堂」を代表して、全体運営の大原さんがゲストへ。
参加理由や活動内容、大原さん自身が感じている「高校生食堂」に対する想いを伝え、放送を聞いた大人達からも絶賛の声だった。
大役を見事一人でこなし、再び鹿’tariyanへ。
現場に戻ると時刻は11時前。
お客様の手元には、デザートの「抹茶ムース」が。
1回転目は大きなミスもなく、調理・接客班ともにうまくいった様子。
その証拠に余裕のこの笑顔。
そして、2回転目は12時開始。
準備時間は約30分。
余裕を感じていた1回転目とは違い、短時間で座席や料理の準備へ。
慌ただしくなる店内。
そして、12時になるとお客様が来店。
店舗の外で開店の挨拶。
お客様を一番に迎えるのは山本愛梨沙さん。
一人一人と言葉を交わす重要なポジションだ。
接客班がお客様を座席へと案内し、順調に進んでいた。
しかし、調理班では予期せぬトラブルが発生していた。
それは、オーブンの不具合による調理の遅れ。
よって、提供するまでに時間がかかりお客様を長い間お待たせすることに。
遅れを取り戻したいという必死さと悔しい気持ちが高まり、不穏な空気が流れた。
しかし、全員でフォローし合いながら最後まで諦めず、提供することができた。
そして、反省の時間へ。
大人はそっと見守り、自分達だけで反省を行った。
全体運営の大原さんが反省をまとめ、奥ではリーダー同士で意見交換が行われた。
「接客班と調理班の連携をどうするか」という課題が残った、2回目のプレオープン。
1週間後の11月21日は本番。
どのように乗り越え、成功を収めたのか。
高校生食堂|未来の大人達のキセキ
【後編】へつづく…遂に完結。
▼高校生食堂|未来の大人達のキセキ【前編】
▼高校生食堂|未来の大人達のキセキ【後編】