薩摩川内市東郷町斧渕にある、小さな喫茶&スナック「シェーン」。
目立つ看板のない、長年、地元客に親しまれる場所。
「シェーン」に一歩足を踏み入れると、外観からは予測できなかった世界が広がっています。
今年で45年目の喫茶&スナック「シェーン」。
店主は81歳の田代ツユコさん。
(店主・田代ツユコさん)
実は、ツユコさんは「シェーン」の店主でありながら、寿司店でダブルワークをしています。
定休日のない「シェーン」。
32歳から薩摩川内市内の寿司店に勤務して、今年で49年目。
そんなツユコさんにお話を伺いました。ぜひ、最後までご覧ください。
薩摩川内市東郷町出身の田代ツユコさん。
22歳の時に結婚し、大阪へ。
2人の息子さんを育てながら、内職で家庭を支えてきました。
ツユコさん:食べ物も何もかも贅沢にない時代だったから、ただただ必死に生きてきたよね。今みたいにお店もいっぱいないし、食堂にも行く余裕もなかった。昔は子育てしながら内職をして、本当に必死に生きてきた。
でも、子どもが生まれた時のことは今でも忘れられない。
この子がおったら幸せ、この子以外、何にもいらないと心の底から本当に思った。
出産時の感動は今でも忘れないと話すツユコさん。
内職をしながら家庭を支え、32歳の時に薩摩川内市に帰郷。
薩摩川内市内の寿司店でパートを始め、転機は4年後の36歳の時。
ご主人のある一言でツユコさんの人生は大きく変わりました。
ツユコさん:ある日、突然、主人がお店をやりなさいと私に言ってきたの。私が知らない間に友人と勝手にこのお店を作っていたみたいでね。
「シェーン」という名前は、主人が好きな西部劇の名前で。その西部劇が好きすぎここを作ったのかなとも思う。
主人はお店を作っただけ。店番をしたことは一度もない。
ツユコさんは旦那さんに言われた通り、「シェーン」の店主として働くようになり、葛藤もあったそうです。
ツユコさん:私は接客の仕事もしたことがないから、最初はとても嫌だった。でも、やるしかないと思って仕方なしで始めたのよ。
始めた頃は、アルコールを飲んだお客さんが入ってきた時はもう怖くて怖くて。
いきなりポツンと1人で始めたからね。
今だから話せるけれど、怖いお客さんがきた時、外へスッと出て行ったこともある。
本当に怖くて。接客のやり方も、何もわからなかった。
涙を浮かべるツユコさん。
その涙はこぼれないものの、「怖かった」と繰り返しました。
「シェーン」でたった1人お店をやりながら、寿司店のパートも続けています。
辞めることもできたはずなのに、ツユコさんは辞めなかったのです。
季節行事の時は、週に5日以上勤務をすることもしばしばあるそうで、1年中働き続けています。
ツユコさん:お陰様で元気だから今も続けることができている。病気もしたこともない。元気の秘訣は朝散歩するくらいかな。1、2時間くらい歩くのを20年ほど続けているね。
もうこの年になったからね、なんでも楽しんでやっている。しんどいと思ったらしたくないでしょ?だから「運動」だと思ってやっている。
朝、近くに暮らす息子の家に行って、毎朝草取りをしている。
1センチくらいの草が生えても全部とってくるから何にも生えていない。私ができる間だけだけどね。
それが「運動」だと思ってやっているからしんどくない。往復1時間、草取り1時間。それが毎朝の日課。
健康維持は、20年以上続けているという朝散歩。
ツユコさんが摘んできた葉が花瓶に挿されています。
ツユコさん:最近は、散歩の帰りに、枝や草を折ってくる。山や道端の青い葉っぱを。良い葉っぱを見つけながら散歩するのが日課。
なんでもかんでも、無理しないでやっている。
側から見たら、無理してると思われているかもしれないけれど、そんなことはない。
好きで始めたわけでも、自分の意志でやりたかった訳でもなく、始まった「シェーン」店主としての人生。
しかし、「引退」を考えたことは一度もないと話します。
ツユコさんがお店を続けている理由、お客さんへの想いがありました。
ツユコさん:引退は考えたことがない。お客さんに恵まれているからね。私が何にもできないときからお店に来てくれて。今でも通い続けてくれている人もいる。
この椅子と机も、お客さんが手作りで作ってくれた。
お客さんも、ここも、なんもかんも始めた時からずっと一緒。もちろん、その間に亡くなった人もね。
出会いと別れ。そりゃあ、40年も50年もしとればねえ。
「引退を考えたことはないのですか」と質問したこの時、ツユコさんが唯一、即答した瞬間でした。
昔からの常連さんへの感謝の想いが強く伝わってきました。
(手作りの椅子と机)
45年という歳月。
今も変わらない味を提供中。
『昔は定食も出していたけどね。今はゆっくり営業しているから軽食だけ。若い時は色々やってたわよ。今よりも元気だったからね。
スパゲッティーやチャーハンの味付けはずっと変わらないね。
冠婚葬祭は別として、365日定休日もない。
休みなく働き続けるツユコさん。
唯一の楽しみは、花を生けて眺めることだそうです。
ツユコさん:お花ぐらい好きでいなきゃ。ずっとこんなところにおってさぁ。唯一の楽しみよね。花束をもらったら、捨てるのが勿体無くて飾るようになったのよ。そしたらどんどん増えていってね、最近減らしたくらい。
店内に飾られている、紫陽花のドライフラワー。
朝の散歩帰りで摘んだ草花も寄り添っています。
また、仕事以外での楽しい思い出は、友人との旅行話も。
ツユコさん:若い頃、友人と旅行に行くのが楽しかった。沖縄から北海道まで色々なところに行った。もう一回ゆっくり行ってみたいのは、和歌山の高野山かな。歩いて登って、ガイドさんがいたからゆっくり見れなかったのよね。
写真もいっぱいあるけど、整理してないね。整理したくないくらい、あっちこっちへ行ったね。
最後に、「シェーン」への想いを尋ねました。
ツユコさん:先が数えるほどだからねぇ。明日が最後かな、明後日かな、と思いながら、楽しんでやる。
決して無理をしないで、何でもかんでも楽しく毎日を過ごすことかな。
以上、ツユコさんへのインタビューでした。
まちの小さな喫茶、スナック「シェーン」は店主のツユコさんによって今日も灯りがつきます。
外からは見えない、小さな灯り。
時間に余裕があって、灯りに気がついた人だけが立ち寄れる場所。
45年間、たった1人で営業を続けてきたツユコさん。
皆さまもぜひ、会いに行かれてみてください。
薩摩川内市東郷町斧渕「喫茶&スナック シェーン」
素敵な空間にきっと心が弾むはず。
それでは。
(2022年9月取材・文/早水奈緒)
(毎日決まった時間に顔を出す、可愛らしい常連客の猫。)
◎喫茶&スナック シェーン
平日 11:00〜24:00 (※日によっては早く閉めることも)
土日 夕方〜24:00
※掲載時の情報と異なる場合もございます。詳しくは店舗へ直接お問合せください。