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薩摩川内市のホーリーバジル農家【旅to商店 Himal】/“持続可能な暮らし”をテーマに地球人として生きる

 

インドを中心とした世界最古の医学では“不老不死の霊薬”や“比類なきもの”と呼ばれる万能ハーブ、“ホーリーバジル”(ヒンディー語:トゥルーシー)。今回取材したのは、そんな万能ハーブを無農薬・無化学肥料で栽培する「旅to商店Himal」の店主、千尋さん。

 

(▲ホーリーバジル農園で作業する千尋さん)

“地球目線”でホーリーバジルを栽培する想い、「持続可能な暮らし」をテーマに国内外の旅を通して出会った“イイモノ”を発信する千尋さんの人生観を伺いました。

 


《目次》

  1. “地球上のどこでも生きていける地球人になりたい”
  2. 屋号「Himal」の由来
  3. ホーリーバジル栽培のきっかけ
  4. 種をつないで今年で6年目/“土づくり”にこだわる
  5. 「全草」で味わってほしい/ホーリーバジルの特徴・効能
  6. 作業はすべて手作業で愛をこめて
  7. 今後の活動で伝えていきたいこと
  8. おわりに

 

 


“地球上のどこでも生きていける地球人になりたい”

 旅to商店Himal店主・千尋さん


 

――まず、千尋さんについてお聞きしたいのですが、これまでどのように人生を歩んでこられたのでしょうか。

 

千尋さん:高校を卒業するまで薩摩川内市で育ち、県外の大学に進学しました。就職で鹿児島の銀行に4年、味噌や醤油を造る会社に1年サラリーマンを経験し、27歳の時に一度仕事を辞めて海外の方へ旅に出ました。

 

――お仕事を辞めようと思ったのはなぜですか?

 

千尋さん:自分のやりたいことが何なのか分からなくなったんです。でも、会社勤めを経て、2つの生き方があると思ったんです。自分のやりたいことを我慢するか、しないか。自分は何がしたいのか考えたときに、自由な生き方も絶対にあるはずと思って。27歳の時に、パートナーと一緒に旅に出ました。

 

――なるほど。旅はどちらへ?

 

千尋さん : 旅は主に東南アジア諸国を巡っています。その中でもヒマラヤの山岳の景色が美しいネパールが大好きです。2019年にはヨーロッパを経由してアフリカにも行きました。

 

 

――千尋さんはなぜ旅をするのでしょうか?知らない土地に行くことに抵抗はないのですか?

 

千尋さん:どこへでも行きます。だって地球人ですから。日本人とか区別する前に、みんな地球人であるわけで、外国に行くことは怖いとは思わない。メディアの情報だけで、「え、あの国はちょっと危険なんじゃない?」とか言われても、私は“知らない”と返します。

私は“知りたい”から行くんです。

地球上のどこでも生きていける地球人になりたいです。

自分の目で見た現実や体験しか信じない。地球人目線であるために感覚や感性を磨くのは、現実に触れるのが一番早いと思う。経験は裏切らない。自分が自由であるために、国内外問わず旅をします。

 

(▲西アフリカの民族楽器「アサラト」の演奏者としても活動中) 

 


“せかせかした時代に、“暇がある”のも良い“

屋号「Himal」の由来


 

――Himal(ヒマール)とはどのような由来があるのでしょうか?

 

千尋さん:ヒマラヤです。「ヒマラヤの花嫁」という小説があって。その小説の一文に「ヒマラヤの山々、ヒマール」と書かれていて。良い言葉だなと思ったんです。せかせかした時代に、“暇がある”のも良いなと。

世界一高い山のように、ゆるぎない決断をしていきたいです。何もなくても美しい地球だけがあれば生きていけるのだと、ヒマラヤを見ながら生活した心地を忘れずに。

 

(▲Tシャツのバックプリントにヒマラヤ山脈) 

 


“目に見えない世界を見ないふりしたくない”

ホーリーバジル栽培のきっかけ


 

――なぜ、ホーリーバジルを栽培されようと思ったのですか?

 

千尋さん:インドやネパールを旅しながら、帰国後に自分が何をしたいか考えたときに、自然に寄り添った暮らしをしたい思ったんです。

まずは植物を育てることから始めようと。ご縁のあるホーリーバジルを育てることから、地球環境や生物の営みに意識を向け、ありとあらゆる命のバランスが取れた自然環境を取り戻したいなと。

 

 

千尋さん:ホーリーバジルは、旅する中で知ったのですが、現地では神聖なものとして扱われていて、その効能が高く評価されているんです。農薬や化学肥料を使わずに栽培するには、やはり自然が豊かであることが一番。

目に見えない世界を見ないふりはしたくないんです。

 

(▲無農薬・無化学肥料でホーリーバジルを自然栽培。)

 


“種をつなぎ、無農薬・無化学肥料で栽培する”


 

――ホーリーバジルの栽培は、いつ頃から栽培を始めたのでしょうか。

 

ホーリーバジル栽培を始めて6年目になります。最初は2017年に市販の種を購入して育ててみました。

ホーリーバジルにも数種類あり、翌年2018年に友人が育てたホーリーバジルの種を譲って頂き、それからはずっと種を繋いで育てています。美しい紫色の花穂を咲かせる“ラマトゥルーシー”という品種を栽培しています。

 

――栽培にはどのようなこだわりがありますか?

 

千尋さん:微生物や動物の力を借りて、農薬や化学肥料は一切使わず、自家製の肥料や地下水を使って栽培をしています。私の農業のスタイルは、極力自然に任せて助けられるところは助けるという考えです。

例えば、茄子を10本植えたとして、収穫できるのは7本くらいだと思います。7本が生き残るために3本の犠牲があり、そのお陰でそれを食べて生きた生物と他の野菜たちも生き残ったと考えます。

犠牲が生まれることも自然なこと。

 

(▲家庭菜園として育てている茄子)

千尋さん:100%完璧にはできない。虫たちの世界も含めて、地球人として自然界のバランスに寄り添っていきたいです。

 

――肥料はどのようなものを使われているのですか?

 

千尋さん:冬の間に土に入れるのは、自家製のもみ殻燻炭、竹チップ、米ぬか、土着菌などです。収穫後は株が弱ってしまうので、株と株の間に“鶏糞”を入れて遅効的に栄養を与えます。

 

――鶏はどのようなエサを食べているのですか?

 

千尋さん:市販されている配合飼料などは与えていません。お米、米ぬか、もみ殻燻炭、ウニ殻、牡蠣殻などを配合した餌に、野菜くずをあげたり、小屋の外に出して雑草や虫を食べられるようにしています。

 

――鶏との共同生活、いかがですか?

 

千尋さん:2021年の3月頃から飼い始めて、お互い意識はするけどペットではないですね。私たちはエサを与え、彼らは卵を産んだり、栄養満点な鶏糞を与えてくれたり、持ちつ持たれつの関係です。

 

――持ちつ持たれつの関係…気づきなどもありましたか?

 

千尋さん:食の意識が変化しましたね。基本的にはお肉を買ったり、食べたりしなくなりました。最終的にはいつか彼らを捌いて食べると決めていて、肉慣れしたくないなと。肉はとても貴重なものだと思うので。

 

(▲自宅前にある手づくりの鶏小屋。5羽の鶏と暮らす。)

 


葉も花も茎も「全草」で味わってほしい。

ホーリーバジルの特徴・効能


 

――ホーリーバジルの特徴や効能について教えてください。

 

千尋さん:ホーリーバジルティーは、キリッとした清涼感と独特なスパイシーさのある味わいが特徴です。個人的には濃くいれて飲むのが好きです。

効能としては、抗酸化、抗菌、リラックス作用があると言われています。常用茶として飲み始めてから風邪もひかなくなりました。崩れがちなホルモンバランスも整えてくれます。

 

――抵抗能力を高める、良いところどりな自然ハーブですね。

 

千尋さん:そうですね。言い過ぎと思われるかもしれませんが、インドの医学アーユルヴェーダでは“不老不死の薬”とも呼ばれています。

現地では神聖な薬草として扱われるほど優れた効能を持っているんです。葉も花も茎も、効用が異なります。だからこそ、全草でその効能も味わっていただきたいんです。

 

(▲千尋さんが販売しているホーリーバジルティー)

 


“作業はすべて手作業で、愛をこめて”

ホーリーバジルの収穫


 

――もうすぐ収穫の時期ということですが、どのように収穫されるのですか?

 

千尋さん:バジル全体をまとめて、穂の部分をすっと刈ります。5年間コツコツと手作業で栽培を続けてきたおかげで、感覚も身につきました。高さを均等にしたり、刈ったあとの手入れも愛をこめて行います。思いやり作業ですね。

 

 

――数量的にはどのくらい栽培されているのでしょうか?

 

千尋さん:今年は720株植えて、今は、雨や風でやられてしまったので650株ほどです。自然栽培なので難しいですが、楽しいです。完璧は目指していません。

 

(▲ホーリーバジルの畑)

 

――収穫後はどのような作業をされるのですか?

 

千尋さん:収穫後はまず、地下水で水洗いをします。その後、乾燥させていきます。

地下水は、飲料水として飲める水質で、保健所の調査もクリアした安全な地下水を使用しています。

 

(▲地下水で水洗いする様子)

(▲乾燥棚も千尋さんの手づくり)

――では、ホーリーバジルの栽培で難しい点はありますか?

 

千尋さん:そうですね、薩摩川内市にホーリーバジル農家がいない中でやっているので、鹿児島の気候に合わせた栽培方法を研究することが難しいですね。年々、観察しながら栽培方法を模索しています。

 

(▲葉っぱが紫色の種類のホーリーバジル)

 


“持続可能な暮らしで美しい地球を守りたい”

今後の活動で伝えていきたいこと


 

――最後に、今後の活動で伝えていきたい千尋さんの想いを聞かせてください。

 

千尋さん:持続可能な暮らしで美しい地球を守りたいです。

ホーリーバジルを栽培して植物と触れ合う中で、実り豊かな地球にしたいなとさらに思うようになりました。美しい地球を守るためには人間がピラミッドの一番上ではなく、地球人として「地球に住まわせてもらっている」ということが前提だと思います。

地球がずっと地球であり続けることのできる、美しい地球であることを願っています。

緑豊かな地球を守るためには、全員がもう一度、見直すべきだと思っています。

一人でも多くの人に、土に触れることや土づくりに興味を持らえるよう、地球人としての役目を果たしていきたいです。

持続可能な社会を目指して心から穏やかな日々を、美しい地球に思いやりを。

この想いを、Himalの活動を通して伝えていきたいです。

 

 

――取材のご協力ありがとうございました。

 


おわりに


 

今回、千尋さんへのインタビューは予定の時間を超え、2時間に及ぶ超ロングインタビューとなりました。

“地球のどこでも生きていける地球人になりたい”、“美しい地球を守りたい”、繰り返される「地球」への想いに、筆者も今を生きる意味について考えるきっかけとなりました。

地球人として、ホーリーバジル農家として、これからも薩摩川内市から国内外へ旅に出かけ、“イイモノ”を発信し続ける千尋さんを応援しています。

読者の皆さまもぜひ一度、千尋さんのさらに詳しい活動を下記SNSよりチェックされてみてくださいね。

それでは。

 

(2022年7月取材・文/早水奈緒)

 

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