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川内大綱引420年祭記念講演会

薩摩川内市が誇る3大祭りのひとつ、川内大綱引。全長365メートル、その重さ実に7トンにも及ぶ日本一の大綱を約3000人の男たちが一斉に引き合います。さらに相手の引き隊を妨害するために、相手陣内に押し込んでいく「押し隊」と呼ばれる男たちが激しくぶつかり合う様子は、他に類を見ない川内大綱引ならではの勇壮果敢なものです。一説には慶長年間(1596年~1614年)、第17代島津義弘が兵士の士気を高めるために始めたといわれます。以来、大綱引は川内の人々の心に強く根付き、第二次世界大戦中の中断、戦後の混乱を乗り越えて受け継がれ、2019年に420年目を迎えました。これを記念し、綱にゆかりの深いお二方による記念講演と祝賀会が開催されました。

台風の影響が残るなか開催された420回川内大綱引。雨風に負けじと参加者の熱気も高まった。

はじめに「川内大綱引の文化財的意義」と題し、鹿児島純心女子大学の小島摩文教授が講演をされました。川内大綱引は鹿児島県の無形民俗文化財として平成18年に指定されています。国の指定候補にも選択され、現在、指定を目指して調査と報告書作成が進んでいます。小島教授はその調査委員会の委員長も務められています。講演では小島教授の専門である民俗学の観点から川内大綱引の特色について等、お話がありました。

「川内大綱引は、明治の末には川内を代表する祭りとして新聞でもその開催が告知されるなど、この地域に愛され根付いている行事である」と小島教授。アジア(韓国、ベトナム)、ヨーロッパ、綱引は世界中にある。日本でも地域により濃淡あるが、日本中で開催されている。鹿児島の集落に根付いている相撲と同様、川内大綱引も民俗行事であり、神事でもある、と説明。「神事には占いの要素もあり、決着をつけないことに民俗学的な意味があるんです。川内大綱引、今は毎年、上方、下方、どちらが勝った!と決着をつけていますが、昔は引き分けも多かった。過去の戦績、何勝何敗ですか?と調べても、誰も分からないんです」と笑いを誘いながら、意外な事実を教えてくださいました。

「綱引は新田神社の宮司が清めて始まりますが、綱を引くこと自体が奉納なんです。そして綱を引く人たち全体に福があるように、との思いが込められている」と解説。また近年特に「地域の復興・振興に伝統芸能が重要な役割を果たしている」こと、「地域の人々が団結し、まとまりを生み、地域や世代をつないでいくもの」として、地域社会における伝統行事、文化の役割が再評価されていることにも触れていました。

続いて「人が映画を作り、映画が人を作る」と題し、映画「大綱引の恋」監督の佐々部清監督が講演されました。2018年に制作発表があり、同年9月の大綱引で予備撮影を実施。そして2019年420年目の大綱引で撮影、前後してオール鹿児島ロケにて映画の撮影が行われました。その撮影秘話や映画づくりにおいて佐々部監督が心がけていることなど、ざっくばらんにお話してくださいました。

「最初に西田聖志郎さんから綱引の映画を撮ろう!と話があって。雨が降ろうが槍が降ろうが、ほぼ行われる、という話だったのですが、万が一を考えて2018年の9月、撮影に入りました。そして昨年の綱引、台風が来るなか開催されましたが、今思えば、準備は正解だったな」とほほ笑む佐々部監督。川内大綱引が毎年、向田と大小路、場所を変えて開催されていることは承知のうえで、なんとか2年続けて同じ場所でできないかと相談されたそうです。それは叶わなかったものの、2019年の綱引から1週間後、国道3号を封鎖して400人のエキストラ・スタッフ・俳優で3時間に及ぶ撮影ができたことを挙げ、「これで壁は突破できたな、と思いました。俳優たちのアップを撮るためにどうしても必要です、と。薩摩川内市の皆さんの協力により、それが実現できました。本当に感謝しています」と、感慨深げに語られました。

「映画の神様っているんです」

2002年の監督デビュー以来、2003年「チルソク(七夕)の夏」、2004年「半落ち」で日本アカデミー賞最優秀作品賞、2013年「六月燈の三姉妹」とキャリアを重ねられ、「大綱引の恋」が19作品目となります。「プロデューサーの聖志郎さんとも話したのは、家族の絆を描こうと。川内の皆さんがこの映画を見て、明るい気持ちになれるような、ちょっとさわやかな気持ちで映画の余韻に包まれながら語り合えるような、未来を思えるような映画にしたいと思ってつくりました」と力強く語る佐々部監督。「『チルソクの夏』、では私の故郷、下関の女の子と韓国・釜山の男の子の淡い恋を描きました。今回の『大綱引の恋』は、日本の男の子と韓国の女の子を軸に描いています。『チルソクの夏』からのオマージュ(引用、影響)も今回の映画に散りばめていますので、今年秋の公開までに『チルソクの夏』を予習として見て頂けると、より一層楽しんで頂けるのではないかなと思います」とのことです!

「私たちスタッフにとって、俳優たちにとって、我が子のようなこの映画を、ぜひ川内の皆さんに応援して頂ければと思います」と締めくくった佐々部監督。映画への愛情、綱への敬意、そして協力して頂いた薩摩川内市の市民の皆さんへの感謝にあふれる、温かいお話でした。

大綱引実施にあたり貢献のある協力団体各位へ表彰状が贈られました。

川内大綱引420年祭祝賀会

川内大綱引保存会、山元浩義会長あいさつ

2020年、川内大綱引は421年目を迎えます。秋には映画「大綱引の恋」の鹿児島先行公開が予定されています。無形民俗文化財として国の指定を目指す動きも着々と進んでいます。多くの人が川内大綱引をふるさとの祭りとして、大切に守り、伝え続けようとする熱気に満ちた記念講演会・祝賀会でした。