東京・南青山「リストランテ濱崎」オーナーシェフとして店を構え、日本イタリアン界の第一線で活躍し続ける濱崎龍一シェフ。朗らかに鹿児島弁で話すシェフは、薩摩川内市の隣、いちき串木野のご出身。「鹿児島食の匠」をはじめ、鹿児島県の薩摩大使、そしていちき串木野市の観光大使として、”鹿児島の食の魅力”発信に関わるキーパーソンでもあります。「地元で、細く長く、続けてもらえたら」と開催している料理教室に参加し、お話をお伺いしました。
濱崎龍一シェフ。いちき串木野、濱崎、ときてピンとくる方もいらしゃるのでは。「浜崎蒲鉾店」は、シェフのご実家。
会場は、いちき串木野市総合観光案内所。満席御礼で教室スタート。
この日のメニューは「鹿児島県産鶏と野菜のボッコンチーニ」。岩手産のフレッシュマッシュルームの説明から。
野菜をすべて切り終えたら、鶏ひき肉と混ぜて、鶏だんごをつくっていきます。
「つなぎが入らないので、ある程度しっかり混ぜてくださいね」
たねができたら、スプーンで形をつくっていきます。「ボッコンチーニ、とは一口大、という意味。適当でいいですよ」
シェフが持参したイタリア・ルッカ産のヴァージンオリーブオイルで、鶏だんごを焼いていきます。
お肉に焼き色がついたら、ミニトマト、ブロッコリー、バジルを加え、水をひと回しして蓋をし、さっと煮込みます。
煮汁が詰まってきたら、オリーブオイルを加えて乳化させ、ソースにします。味見をして「いいでしょう!」
お皿に盛り、オリーブオイルをかけて、出来上がり。「イタリアの素朴な料理です」という一品。
地元代表の料理人として、お食事処ぎおんの河原シェフが登場。いちき串木野名産のぽんかんを使った、和食「ポンカン釜焼き」を紹介。いろんな料理にアレンジして使える「玉味噌」作りから、教えてくださいました。
シェフのデモンストレーションのあと、実際に調理開始。濱崎シェフ、河原シェフが各テーブルを回り、教えて(作って?)頂きました。
デザートに「ヘーゼルナッツとリコッタチーズのケーキ」。ナッツがたっぷりと入ったイタリアらしい焼き菓子です。
シェフのお手伝いもあって、無事に料理が仕上がりました。Buon appetito♪
2019年3月3日(日)にも、濱崎シェフによる料理教室が開催予定です。地元食材を使った自宅で作れるイタリアン、ぜひマスターしてみませんか。
◇申込・問合せ いちき串木野市総合観光案内所:0996-32-5256
■濱崎龍一シェフ・ロングインタビュー
いちき串木野市に生まれ育ち、串木野高校卒業後、大阪の調理師学校を経て、料理の世界へ。実家が蒲鉾店だったこともあり、ゆくゆくは店を継ぐことも視野にいれての進路だったが、「料理界に入る!料理人になる!という強い志があったわけではないです」と笑うシェフ。じっくりお話頂きました。
-なぜイタリアンの道に?
「最初は中華に入ったが、1日でやめた。中華は違うな、失礼しますって、辞めましたね(苦笑)」次に、知人のいるイタリアンへ。「パスタや麺が好きだった。パスタはブームになってきているし、という安易な感じ」だったというが、その後、みっちり3か月、イタリアを食べ歩いた。
「イタリアに行って、イタリアすごいな!と。日本に帰国後、有名なイタリアンレストランに入る機会を得て、同年代の調理人がバンバン活躍しているのを目の当たりにして、そこからですね、火がついたのは。負けず嫌いなところがあって、何か聞かれて分からないと言いたくない。たえずメモして勉強してました」
その後、濱崎シェフは、再びイタリアに渡り、イタリアでも一番といわれる「ダル・ペスカトーレ」(現在ミシュラン3つ星、当時2つ星)で修行する。「私は子どもみたいなものだったから、家族のように親しくしてくれましたね」と懐かしそう。「いま、その店で息子(濱崎弘瑶シェフ)が働いている。徐々に慣れてきてるんじゃないかな」
-レストランのグローバル化
「フランス、イタリアで日本人の調理師はひっぱりだこですよ、やっぱり器用だから。日本の飲食業界はまだちょっと閉鎖的なのかな。これからは語学も大事になってくる。イタリア語、自分は話せないが、今はいいのが出来たから(スマートフォンのアプリ等)」とグローバル化にも前向き。
-ご自身のレストラン「リストランテ濱崎」は2001年開業、18年目に
「続けていくのが大事ですね、そのために努力している。真新しい料理をつくるわけではない、僕のはちょっとガンコな料理。華やかな料理を、といろいろチャレンジもしたが、やっぱり自分の料理がいいかな」「息子が帰ってきたら、また新しい風を取り入れることもできるかなと。ただの”イタリアン”ではなく、”濱崎ブランド”の料理を確立していきたい。そのために、いま準備中というところ」
-鹿児島出身のシェフ、著名な方も数多く輩出していますね
「大御所ですね、僕らより10~20歳上の人たちは、ハングリー精神がすごい」
「鹿児島の味、っていうのはあると思うよ。地元の味、食べ慣れた味、お袋の味というのは大きいね。味覚というのはそう変わらない。イタリアンだって「マンマの味」が基本。鹿児島の甘口料理、辛口の酒というのは、自分の味覚のベースにあると思う」
-食の匠、観光大使として、”鹿児島の食”に思うことは
「拝命して数年になりますか。薩摩大使、食の匠の仕事も絡めて、自分の気晴らし、趣味も兼ねて、月1くらいで帰ってきてます」
「東京にいて思うことは、鹿児島の食材はすごくいい。そして今、若い人たちがすごく頑張っている。坊津で塩をつくっている人、陶器をつくる人、レストランの人も頑張っている。僕も食べに行ってますよ」
「前みたいに、東京まで行かなくても地元でやれる機会もたくさんある。それでも機会があれば、外に出て、いろいろ見て、食べて。そういう機会はある方がいいかな」
「食材は豊かだけど、食文化は発達しない、というのが今までの地方にはあったかもしれない。だって「作る」必要がないから。そのまま食べておいしい、そこで完結しているから、おいしく提供しよう、という発展性がいままであまりなかったところはあるかも」
「最近になって、いい食材にきちんと手をかけて提供する、そのニーズが出てきていると思う。鹿児島の自分たちのものを、前面に出そうという意識が今地元の人にはあるから、発達していく兆しがあります。時代が変わり、手をかけて提供しようという動きが出てきたように思います」
「海外からの観光客(インバウンド)も含め、つくる人の意識しかり、食べる人の意識も必要。作り甲斐、食べ甲斐がお互いにないとね。それがあれば、若い人も頑張るし、ベテランも頑張る(笑)」
-鹿児島の食材について
「今までは流通が上手くいかなくて、福岡には出せても大阪、東京は厳しいという時代があった。今は、鮮度を保ち、航空便などコストはかかるが、商品価値の高い鹿児島の食材が出回るようになっている」
-どんな食材を使いますか
「今の時期だったら、大将季(不知火デコポン)、マンゴーなどフルーツ類。そらまめ、グリンピース、菜の花。種子島の安納芋、大隅の白なす、などかな」
「鹿児島のものを使えるのは嬉しいし、いい生産者さんと出会えたときは喜びだね。入来の金柑も使ってますよ。せっかくだから、地元の食材をつかってひろめていきたいですね。県の人と一緒に生産地に行っています」
-いちき串木野、薩摩川内など北薩について
「北薩は交通の便がいいので、出向きやすいですよ。長島にも行きました。川内も頑張って!甑島があるんだから!」と力説するシェフ。
-甑島はお好きですか
「そのために帰ってきている(笑)甑島はよく行きます。釣りのために帰ってくる、大好き」「甑島は異国だよ」と興奮気味に話す濱崎シェフ。
「下甑は恐竜(の化石)が出たとか言ってるでしょ、そりゃ出るわい。すごいところだね、土地が。漁船で行くから、すごいところを通りますよ。甑の地層のすごいところを通る。洞窟とかいっぱいありますね。観光もまじえて、うまく甑島の漁業、暮らしなども見せていけたらいいね」
-料理教室をするのは地域貢献の意味もありますか?
「地元でやってくれることは大変ありがたい。一回かぎりじゃなくて、細く長く、ちょっとずつでも続けさせてくださいと伝えてあります。地域貢献、というわけでもないけれども、何年も、小さいながらも続けてやれることが大事」
「今はもう、普通の料理教室は東京ではしてないね。セミプロ、プロ向けの講習会はやるけど。お声かけ頂ければ、やりますよ」とのこと。地元での料理教室、こちらこそありがたいかぎりです。
-これからの目標は
「現状維持ですね!」と笑顔で語るシェフ。「これが一番難しいですよ。去年と同じ、という状況を作り出す。そのためには去年と同じじゃいけない。ちょっとずつでも進化していかないといけませんから」「毎日満席にしなくちゃね、18年間ずっと満席ですよ。これを保つ」なんとかやってますよ、だましだまし、とほほ笑む。
-料理のアイデアはどこから
「そうですね、食材。外に食べに行って、これちょっと作ってみようかな、とか。お皿からインスピレーションが沸く。それが一番かな、この器に何の料理を盛ろうかなと考える。オリジナルのお皿、絵付けでつくってもらったりしています」
-何が好きですか?
「エビフライとかハンバーグ、普通のものが好き(笑)。小さい時から好きで、変わらないね。脂っこいものは最近ダメになったかな」
「お酒は、少しは飲む。焼酎もたまには飲みます、ビールもそんなには飲まない。シャンパン、赤白ワインは飲むけど、がぶ飲みはしません!甘いものも好きです」
-東京はじめ全国の皆さんへ
「鹿児島は食材も豊かで、おいしく、海もきれい、自然に恵まれている。全国から鹿児島にぜひ遊びにきてほしい。地元の人も頑張っているので、出身者である僕らも含めて頑張っているので、応援して頂きたいなと思います」
-薩摩川内市、いちき串木野市、鹿児島の皆さんにメッセージを
「月に1,2度鹿児島が好き、釣りが好きなので、仕事も絡めて、甑島に行くために、帰ってきてます(笑)。釣り大好きですね。いいですね、きれいだし、島はいいですよ。こっちに来て息抜きしてリフレッシュして東京に帰って、また頑張る、という感じです」
「リストランテ濱崎は、こじんまりとした家族経営の店で、従業員の人とも楽しくやれるように心がけていいます。日々、驚きがあるわけではないけれども、少しずつ前に進む、という流れでやっています。鹿児島の方、よく来ていただいてます。妻も鹿児島出身なので、時にはお客様と一緒に鹿児島弁も飛び交ってますよ。是非、いらしてください。お待ちしています」
「こちらにもちょこちょこ戻ってきて、いいものを見つけて、東京でも使いたいと思います。いちき串木野での料理教室も、細く長く続けていきます」