鹿児島県薩摩川内市のコミュニティ放送局

インターハイ2019・熱戦の記憶(1)

高校生の夏のスポーツの祭典、全国高校総体。男女バスケットボール競技は薩摩川内市のサンアリーナせんだいをメイン開催地として行われ、8月2日の決勝で令和初のインターハイ王者が決定。7日間の熱戦の幕を閉じました。梅雨明けして迎えた今大会、期間中は選手たちを歓迎するように夏の青空が広がりました。晴天のもと繰り広げられた数々のドラマを振り返ります。

異例の大抜擢。もうひとつの決勝進出

地元開催のインターハイ。川内高校男子バスケットボール部OBが、全国決勝のコートに立った。「自分でも信じられなかった」と話すのは、前田隼大さん(26歳)。鹿児島市生まれで、明和中から強豪校でバスケがしたいと、川内高校に進学。3年時に自身も高校総体に出場している。現在、鹿児島市の病院に理学療法士として勤務するかたわら、3年前にB級ライセンスを取得し、審判のキャリアをスタート。今回のインターハイに向けた鹿児島県下のノミネート審判40名に名を連ね、鹿児島県予選では男子決勝リーグ「鹿児島商業対れいめい」の笛を吹いた。B級の上位にA級、S級とある。JBAが示す基準では、B級=ブロック大会、A級=全国大会、S級=プロリーグ相当となっている。今年中にA級、来年にはS級取得を目指す前田さんにとって「今回のインターハイでは3回戦が目標だった」という。

ところが、大会前に送られてきた担当割り当てを見てびっくり。1回戦から、目標を上回る準々決勝までが前田さんの担当となっていた。「実は県大会の決勝(1位決定戦)も吹いたことがない」という前田さん。この3年間、川内高校は毎年決勝に進出し、前田さんの恩師でもある田中監督が指揮を取っている。このような場合、ジャッジの中立性を保つため、川内高校の試合からは外れるのが慣例となっているからだ。地元開催のインターハイは選手にとっても審判にとっても、晴れの大舞台。前田さんも仕事の合間をぬって、担当するチームの試合映像を見るなど準備に励んだ。「鹿児島県には留学生のいるチームがまだないので、そこは特に注意して準備しました」と話す。

そして迎えたインターハイ。前田さんは、1回戦・北陸対市立船橋、2回戦・福島南対中部大第一、3回戦・延岡学園対桐光学園、準々決勝・能代工業対開志国際を担当。筆者は1回戦の試合を観戦していた。両者ともに力が拮抗し、最後までもつれる展開だったのを記憶している。試合後、前田さんに「初戦から熱戦でしたね」と声をかけると、「市立船橋、1回戦で消えるのはもったいないチームですよ」と真っ先に敗者を称える言葉が返ってきた。試合終了まで冷静にゲームをコントロールしながらも、その奥にある思いが伝わってきた瞬間だった。

決勝2日前の7月31日、前田さんに一通のメールが届く。それは男子決勝の審判担当を告げるものだった。「自分でも信じられないし、周りも驚くばかり」。大会関係者も「異例中の異例」と話す。B級審判が全国大会の決勝を吹くのは「史上初」ではないか、とのこと。地元の若い人材への期待や、決勝進出を果たした北陸高校の試合を担当していたことなど理由は挙げられるだろうが、何より大会を通して前田さんのジャッジが的確であると評価されたことが一番だろう。「こんなチャンスはない」と興奮しながらも今まで通り、該当チームの映像を見て準備し、体調管理に努め、全国決勝の舞台にのぞんだ。

クルーチーフ相原伸康さん、ファーストアンパイア有澤重行さん、セカンドアンパイア前田隼大さん(写真中央)。ベテラン2人と全国ファイナルの大一番へ。

決勝カードは、北陸対福岡第一。人気、実力ともに今大会を代表するプレーヤー河村勇輝選手を筆頭に、小川麻斗選手、スティーブ選手らを擁し、優勝候補の大本命として勝ち上がってきた福岡第一。それとは対照的に、北陸はひと試合ごとにチームが成長し、ノーシードから決勝まで勝ち上がってきた。

ただでさえ注目度の高い全国大会の決勝、「絶対王者」福岡第一がどんなゲームを見せるのか、河村選手がどんなプレーで観衆を沸かせるのか。会場に詰めかけた超満員の観客のみならず、テレビ中継を通じて全国のバスケファンが熱い視線を注いだゲームであったことは間違いない。結果は福岡第一が勝利をおさめたが、北陸も最後まで全力でプレーし、コート上に躍動する選手たちは鮮烈な印象を残した。ジャッジに起因する遅延や不服もなく、その点でもスピーディでスムーズな試合だったといえよう。

試合後、審判陣のレビューを終えた直後の前田さんに話を聞いた。「まずは無事に試合を終えて、ほっとしている」とにっこり。河村選手をはじめとする選手たちのプレーには「速かった!」と笑う前田さん。異例の大抜擢に緊張はありつつも「いい準備ができたから、自信を持って吹けた」と充実した表情を見せた。バスケットボールをやっている選手たちに、また違うかたちで頂上を目指せることを示したが「プレーヤーはプレーをするのが一番。一生懸命取り組んだ先に、指導者や審判という道もある」と、子どもたちには伝えたいそう。

今回の抜擢をSNS(Twitter)で発信したところ、全国の審判関係者から大きな反響があった。「ワッペンBだよね?」「B級がインハイの決勝に入る。これは希望」「映像がアップになり、S級じゃない?!となった。俺も頑張ろう」「すごい。全然違和感なくて、普通にS級3人だと思っていた。地元の審判員に吹かせるって良いな!ものすごいチャンスをもらえたなー」「これは本当にすごい。実力とタイミング次第では全国大会の決勝を吹くことができる。伸び盛りの若手審判にとっては大きなモチベーションになる」等、驚きと賞賛の声が相次いだ。

そんな反響をよそに前田さんはいたって穏やかだ。「サンアリーナせんだいで、恩師・田中監督の前でコートに立てたこと。そして全国大会の決勝という目標以上のことが叶い、本当に感謝です。鹿児島県に還元できるよう、また頑張ります」。大会を支える審判員。黒子に徹する彼らもまた、高みを目指して研鑽している。インターハイの大舞台で、その努力にひと筋の光が当たった。

 

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