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川内まごころ文学館シネマトーク「片隅から世界を照らす光」

薩摩川内市中郷にある川内まごころ文学館。毎月開催の映画上映会のスペシャル版として、豪華解説陣によるシネマトーク付き上映会が行われました。開場前から列ができ、満員御礼の盛況となりました。

全国でロングラン上映となった映画『この世界の片隅に』 鑑賞に先立ち、3人の講師陣による鼎談で背景を学びます。小林潤司・鹿児島国際大学国際文化学部教授、中路武士・鹿児島大学法文学部准教授、そして小林朋子・鹿児島県立短期大学准教授の3氏が、それぞれのご専門の見地から作品を解説。

細かい描写が、”民俗知の伝承”となる。

まずはじめに、作品の舞台となっている呉市のご出身でもある小林朋子先生のお話からスタート。原作漫画の冒頭のコマをふまえ、「本作は”個人の具体性に根差した視点”が貫かれている。原作者のこうの史代は”戦争を実際には知らない、体験していない”者としての謙虚さを備え、生活者の様子を徹底して調べ上げることにより、細部への眼差しを獲得した」と説明。井上ひさし著『父と暮らせば』など、同様の手法で綴られた作品も紹介されました。

つづいて、アニメーションの技法に詳しい中路先生による解説。監督の片渕須直さんは、ジブリアニメーションの出身。本来であれば、映画『魔女の宅急便』の監督になる予定だったのが、「無名の監督ではヒットしない」と、スポンサーにいわれた過去があったのだそう。本作も資金集めに苦労し、クラウドファンディングで制作資金を調達。結果、予想以上の大ヒットとなったのは、ご存知のとおり。

片渕監督は本作の製作にあたり、6年かけて事前調査を行ったそう。徹底した色彩、質感の再現、主要な人物はもちろん、群衆の服装や、実際の日にちの天気に至るまで、「粘着質なまでに・笑」詳細に調べ上げる手法が、リアリティを生んだと語ります。また、女優のんさんの「声」の力が大きいと、力説。実際に映画を鑑賞すると、その通りだなと実感します!

「原作の漫画もかなり実験的な作品」であり、こちらも是非読んで欲しいとのこと。原作からはひとつ大きな物語が映画では省略されており、このストーリーを織り込んだ”30分延長バージョン”を、片渕監督は予定しているのだそうです。いつになるかは不明ながら、、こちらも楽しみですね。

小林潤司先生は、「どういうディテール(細部)をひろってくるか?」として、民俗学の宮本常一や渋沢敬三を紹介しながら、原作のこうの史代の漫画および本映画を「コミックや映画を媒体とした研究」である、と説明。リアリティ、実感のための追求が結果的に「民俗知の記録となった」としています。また、憲兵や国防婦人会など、従来の「悪者役」を従来どおりには描かない、定型からの脱出もリアリティを生んでいる、と解説されました。

会場参加者の質問からは、「戦時中ということをのぞけば、幸せな家族像が描かれていて、リアリティもありながら、どこかファンタジーの世界のようでもある」との言葉も。普遍的なひとりの女性の人生を丹念に描くことで、戦争の悲惨さを訴えると同時に、いつの時代も変わらない大切なものが深く心に残ります。まごころ文学館では、現在、戦争企画展も併せて展示中です。戦時中にまかれたビラや千人針など、実際に目にすることで、『この世界の片隅に』への理解が深まる内容です。

ほかにも「里見弴~藝の世界~」や、名作シネマ上映会、夏休みおはなし会など、様々な催しを実施中です。この夏、まごころ文学館、川内歴史資料館へ是非お出かけください。

川内まごころ文学館

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